2021年3月1日に施行された「改正会社法」の大きなポイントの一つが、株主総会に関するルールの変更です。上場企業・大企業に影響のある変更が多いのですが、中小企業にも適用されるルールも含まれているため、概要とポイントを確認しておきましょう。
株主総会資料の電子提供制度の創設 (2022年9月1日施行)
株主総会資料の電子提供制度が創設され、株主総会資料 (株主総会参考書類や事業報告等) を株主に書面で提供するのではなく、会社のウェブサイトに掲載し、株主に招集通知を交付してそのアドレス等を通知する方法によって提供できるようになりました。この制度を利用するためには、定款で制度を利用する旨を定める必要があります。
会社法改正前も、株主の個別の同意を得れば電子提供は可能だったのですが、今回の改正により、個別の同意を得なくても提供できるようになりました。
これまでは原則、紙での提供が必要でしたので、とくに株主の多い企業にとっては、印刷・発送コストが重い負担になっていました。企業はこの制度を利用することで、印刷や発送などのコストを削減できるほか、株主へより早く資料を提供できるため、株主の議案の検討期間が長くとれるようになります。なお、インターネットを利用できない株主は、従来どおり、会社に対して予め請求をすれば紙の資料を交付してもらうことができます。
上場会社には、この制度を利用することが義務付けられていますが、非上場の中小企業は義務ではなく、「利用することができる」とされています。中小企業は基本的には株主数が少ないため、この制度を利用するメリットはあまりないかもしれません。もし利用する場合には、通常、非上場の中小企業は株主総会の日の1週間前までに株主総会招集通知を送付すればよいところ、電子提供制度を利用する場合には、株主総会の日の2週間前までに送付する必要があり、さらに資料のウェブサイトへの掲載は株主総会の日の3週間前までの日又は招集通知を発した日のいずれか早い日までに行う必要がある点に注意が必要です。
株主が提案できる議案数の制限
総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する等の要件を満たす株主は、株主総会の日の8週間前までに会社に通知することで、株主総会に議案を提出できます。しかし、近年、一部の株主が膨大な数の提案を提出し、株主総会の運営を妨害する事例が問題となっていました。
そこで改正法では、このような株主提案権の濫用的行使を制限するため、1人の株主が1回の株主総会で提案できる議案の数を10個までに制限しました(会社の方で任意に11個以上の議案を招集通知に記載することは妨げられません。)。ただし、取締役や監査役の選任議案は、人数にかかわらず1個の議案とされます。
これにより、会社を困らせるような濫用的な議案の提案を抑制し、株主総会の長時間化などを防ぐことができます。このルールは、上場会社・非上場会社を問わず適用されます。
議決権行使書面の閲覧等制限
株主は、株主総会に提出された議決権行使書面の閲覧謄写請求ができます。これは、株主総会手続きの適法性の確保のために株主が行使できる権利です。しかし、これまで閲覧等請求をする株主は、その理由を明らかにする必要がなく、株主名簿の閲覧等請求と異なり拒絶事由が定められていなかったため、例えば株主の住所などの個人情報を入手するために閲覧することも可能であり、問題視されていました。
そのため改正法は、議決権行使書面に記載された株主の情報が濫用される事態を防ぐため、閲覧等請求を行う場合はその理由を明らかにしなければならず、それが株主権の行使に関する調査以外の目的である場合であれば、会社は閲覧等請求を拒否できるとしました。このルールも、上場会社・非上場会社を問わず適用されます。
監修 : 石田 哲也 (牛島総合法律事務所 パートナー弁護士)
米国コロンビア大学ロースクール修了 (LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar)。
ニューヨーク州弁護士、CIA(公認内部監査人)の資格も有している。
金融、不動産、スポーツ、エンタメ業界を中心に、訴訟案件や企業不祥事案件、M&A、コーポレートガバナンスコード対応など多岐にわたる案件を取り扱う。
書籍、裁判例、データベース、外国の実務等あらゆるツールを駆使して、法的観点から依頼者のサポートを行う。
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