2021年施行「改正会社法」のポイント:②取締役等に関するルールの変更

会社法

今回の改正法の大きなポイントの一つが「取締役等に関するルール」の変更です。

中小企業にとっては対応が不要なものもありますが、「ガバナンス強化」の観点から非常に重要な意味を持つ改正内容となっていますので、ポイントを押さえておきましょう。

取締役の報酬に関する規律の見直し

(1) 株式報酬
取締役の報酬等として、株式または新株予約権を付与する場合、定款または株主総会の決議によって、その数の上限を定めることが義務付けられました。中小企業においても、報酬として株式または新株予約権を与える場合は、対応が必要となります。なお、株式の無償交付(金銭の払込みなしに取締役に株式を報酬として交付する)を利用することができるのは上場会社に限られる点には留意する必要がございます。

(2) 取締役の個別報酬決定方針を定める義務
以前は多くの場合、取締役会(あるいは代表取締役への一任)で各取締役の報酬額が決められていました。しかし、それでは報酬額が適切かどうか判断しにくいため、改正法では、監査役会設置会社 (主に上場企業) と監査等委員会設置会社においては、定款や株主総会決議で各取締役の報酬が具体的に定められていない場合、各取締役の報酬額に関する「決定方針」を、取締役会で定めることが義務付けられました。

会社補償

取締役らが職務執行において法令違反を疑われ、株主代表訴訟などで責任追及された際に生じる弁護士費用や賠償金などの全部または一部を、会社が補償する制度の規定が創設されました。

会社補償を行う場合は、補償契約の内容について、株主総会 (取締役会設置会社の場合は取締役会) の決議を経る必要があり、その後、会社と取締役らが補償契約を締結する流れとなります。

この制度は、取締役らが多額の損害賠償などの責任を負うことを恐れて、その職務執行が萎縮してしまわないようインセンティブを付与するもので、優秀な人材の確保にもつながるとされています。

D&O保険契約 (Directors & Officers Liability Insurance・役員等賠償責任保険契約)

D&O保険に関する規定が新設されました。「D&O保険契約 (Directors & Officers Liability Insurance・役員等賠償責任保険契約) 」とは、取締役らが職務執行に関して損害賠償責任を負う場合に、その損害賠償金を会社が掛け金を負担した保険金で補填するという保険契約です。

以前から、上場会社を中心に広く普及していましたが、手続きなどが明確に定まっていませんでした。それが今回の改正で、D&O保険契約を締結する際は、契約内容について、株主総会 (取締役会設置会社の場合は取締役会) の決議を経る必要があると定められました。

D&O保険も「会社補償」と同様の効果を持ち、取締役らがリスクをおそれず積極的に職務を執行できるようになるとともに、優秀な人材が定着しやすくなります。

中小企業、非上場企業には必要ないのでは、と思われるかもしれませんが、上場・非上場にかかわらず訴訟リスクは存在しますので、検討する余地はあると考えられます。また、会社補償の範囲とD&O保険の範囲は一致するものではないため、併用することも検討に値します。

社外取締役の設置義務化

監査役会設置会社であって有価証券報告書を提出する義務を負う会社(通常は上場企業ですが大規模な非上場の会社には該当する場合がございます。)、社外取締役を1人以上置くことが義務付けられました。以前は、社外取締役を設置することが相当でない理由を株主総会で説明すれば足りると条文上規定されておりましたが、当該規定は削除されそれが許されなくなりました。この改正の目的は、上場企業等に必ず社外取締役を設置することで、日本の資本市場がガバナンスの観点で信頼できることを国内外に示すためとされています。

社外取締役への業務執行の委託

一定の要件を満たす場合、社外取締役に業務執行を委託できるようになりました。

会社と取締役が利益相反の関係にある場合 (例えばMBOといった取締役による会社の買収提案があった場合) 、社外取締役が買収者との交渉等の対外的な行為を行うというケースがあります。このような場合に、買収者との交渉等が、業務執行に該当するために、社外取締役が関与できないとなると、社外取締役に期待されている少数株主の利益保護を図ることができません。

そうした経緯を踏まえ、改正法では、会社と取締役が利益相反の関係にあるときなどは、その都度、取締役会の決議によって、社外取締役に業務執行を委託できることが定められました。この改正は、上場会社、非上場会社を問わず対象となります。

監修 : 石田 哲也 (牛島総合法律事務所 パートナー弁護士)

慶應義塾大学法学部・慶應義塾大学法科大学院卒業。
米国コロンビア大学ロースクール修了 (LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar)。
ニューヨーク州弁護士、CIA(公認内部監査人)の資格も有している。
金融、不動産、スポーツ、エンタメ業界を中心に、訴訟案件や企業不祥事案件、M&A、コーポレートガバナンスコード対応など多岐にわたる案件を取り扱う。
書籍、裁判例、データベース、外国の実務等あらゆるツールを駆使して、法的観点から依頼者のサポートを行う。

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