「みなし残業手当を導入しているが、全体的に残業時間が減っているので減額したい」、「同一賃金同一手当に合わせて、正社員の扶養手当を廃止したい」など、会社を経営していくうえで、手当の減額や廃止の必要が生じることがあります。
その場合、就業規則を変更することになりますが、従業員に不利益となるような変更は、「不利益変更」として、原則禁じられています。
今回はやむを得ず「不利益変更」をする場合の注意点について説明します。
不利益変更をする場合に必要な手続きとは?
いくら必要性があるからといって、会社側が 一方的に「労働者に不利になる就業規則の変更」を行うことは認められておらず、原則として従業員との合意 が必要となります。
ただし、合意がない場合でも、① 変更後の就業規則の周知 と、② 合理性 がある場合は認められるとされています。この② 合理性 があるかどうかの判断は、下記の5つの要素を考慮して判断されます。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の相当性
- 代償措置や関連する労働条件の改善
- 労働組合等との交渉状況
合理性が認められるかどうかは、様々な個別事情を勘案して判断されるため、「このようなケースは合理性がある」と、単純に言い切れるものではありません。もし従業員の合意なく不利益変更を行う必要が生じた場合は、専門家に相談して進めることをおすすめします。
合意なき「不利益変更」の罰則は?
従業員の合意なく不利益変更をした場合、会社に何かペナルティはあるのでしょうか?
結論からいうと、「不利益変更」をしても特に法的な罰則はありません。
とはいえ、不利益を被った従業員から、変更無効や損害賠償を求める訴訟を起こされるリスクはあります。また、訴訟にならなくても、不満を感じる従業員が多ければモチベーションが下がり、生産性の低下につながるおそれは多分にあるでしょう。
なお、変更後の就業規則は労働基準監督署に届ける必要があり、それを怠ると罰則の対象になるため注意が必要です。
従業員の合意を得るには?
上記のとおり、従業員の合意を得ずに不利益変更を行ってしまうと、訴訟リスクや生産性低下リスクが生じるため、可能な限り合意を得る努力をすべきだと考えられます。
具体的には、従業員に対し、「なぜ変更の必要があるのか」について丁寧に説明し、理解を求めることが大切です。
また、経過措置 や 代替措置 を設けるやり方もあります。例えば、手当をいきなり廃止するのではなく段階的に引き下げたり、手当を廃止する代わりに基本給を引き上げたりする方法です。
おわりに
従業員にとってマイナスとなる手当の減額・廃止はできれば避けたいものですが、会社存続のためにやむを得ず実施するケースも多いでしょう。トラブルを防ぐためには、そうした会社の事情を従業員に理解してもらうべく、真摯に説明する態度が何より重要です。
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