中小企業にも必要?役員のためのD&O保険と会社補償

会社法

2021年改正会社法では、役員等賠償責任保険 (Directors and Officers Liability Insurance、以下D&O保険といいます) と、会社補償の規定が明文化されました。

会社の役員はさまざまな訴訟を起こされる可能性があり、多額の損害賠償責任を負うリスクを抱えています。それを恐れて役員が積極的に業務を行えなくなったり、会社が新たに役員の選任をしても辞退されたりといった事態が起こり得ます。そこで、役員が安心して業務を遂行し、優秀な人材が役員として定着しやすくなることを目的として、今回の改正が行われました。

D&O保険と会社補償とは?

まずは、「D&O保険」と「会社補償」がどんなものかを確認しておきましょう。

「D&O保険」とは、会社の役員が、職務の執行に関して訴訟を起こされた場合に、弁護士費用や損害賠償金などをカバーしてくれる保険です。

「会社補償」とは、職務の執行に関して訴訟を起こされた場合に、弁護士費用や損害賠償金などを会社が補償する契約を結ぶ制度のことをいいます。

どちらも「役員が責任追及を受けた際に生じた経済的負担(賠償金や訴訟費用)を填補する」性質を持ち、役員のリスク回避やインセンティブ付与を目的としている点は同じですが、D&O保険は会社が役員を被保険者として保険会社と結ぶ契約 (会社が保険会社に保険料を支払い、保険会社から役員に保険金が支払われる) であるのに対し、会社補償は会社と役員が結ぶ契約 (役員に生じた損害賠償金等を会社が補償する) であるという違いがあります。

D&O保険は、以前から上場会社を中心に広く利用されていましたが、今回の法改正で導入する場合の手続きなどが明確になりました。

一方の会社補償は、これまで実際に利用された例はあるものの、法的に認められるかどうか、やや不明瞭でした。こちらも今回の法改正で、補償範囲や手続きが明確に規定されました。

大企業しか必要ない?

D&O保険も会社補償も、大企業だけが対象で、中小企業には必要ないのでは、と思う人もいるかもしれません。しかし、実際のところ、会社の規模や上場・未上場にかかわらず、訴えられるリスクは数多く存在します。むしろ、中小企業の場合、会社の規定が適当になっている場合も多く、役員の不正が起こりやすい傾向があります。

また、近年では、働き方改革により、過労死やパワハラによる損害などについて役員個人が責任を問われる事案も増加しており、役員を取り巻く訴訟リスクは年々高まっているといえるでしょう。

役員の負っている義務や責任とは?

役員が訴訟を起こされるのは、法律に基づいた義務や責任を果たせず、会社や第三者に損害を与えたときです。では、役員は具体的にどのような義務や責任を負っているのでしょうか? 以下、「会社に対して」の責任と「第三者に対して」の責任、2つに分けて見ていきます。なお、ここでいう「第三者」には、取引先、金融機関、顧客、従業員などが含まれます。

(1) 会社に対しての責任

  • 善管注意義務 (取締役として相当の注意を尽くして業務を遂行しなければならない)
  • 忠実義務 (取締役として法令、定款、株主総会決議を遵守して、会社のために忠実に業務を遂行しなければならない)
  • 競業避止義務 (取締役が競業取引を行う場合には、事前に取締役会の承認を得なければならない)
  • 利益相反取引回避義務 (取締役が利益相反取引を行う場合には、事前に取締役会の承認を得なければならない)
  • 監視・監督義務 (他の代表取締役または取締役の行為が法令、定款を遵守し、かつ適正になされていることを監視しなければならない)

    これらの責任を果たせない場合、次の訴訟を起こされるリスクがあります。
  • 株主代表訴訟 (役員が会社に損害を与えた場合に、株主が会社に代わって、役員に損害賠償を請求する訴訟)
  • 会社訴訟 (役員が善管注意義務や忠実義務に違反し会社に損害を与えた場合に、会社が役員に損害賠償を請求する訴訟)

(2) 第三者に対する責任

  • 一般の不法行為責任 (故意または過失により他人の権利を侵害した者は、その損害を賠償しなければならない)
  • 会社法上の特別責任 (役員がその職務を行うにあたり悪意または重大な過失があった場合は、当該役員は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う)

    これらの責任を果たせない場合、次の訴訟を起こされるリスクがあります。
  • 第三者訴訟 (役員が故意・重過失等によって第三者 (取引先、株主等) に損害を与えた場合 に、第三者が損害賠償を請求する訴訟)

実際に役員が責任を問われるケースとは?

次に、実際に役員がどのような場合に責任を問われているのか、具体的な事案をいくつか紹介します。

  • 関連会社が投資の失敗により、金融機関からの借入金を返済できなくなり、親会社が肩代わりをした。親会社の取締役に善管注意義務違反があったとして、株主から損害賠償請求をされた。
  • 会社のパソコンから情報が流出した。役員が社内の情報管理体制を構築するという注意義務を怠ったために会社に損害を与えたとして、株主から損害賠償請求をされた。
  • 従業員が過労死したことに対し、会社全体で長時間労働が行われていたことを役員が認識していたのに放置したとして、遺族から損害賠償請求された。
  • 提携先と提携を打ち切ったことに対し、それまでの投資金額が回収できなくなったとして、提携先企業から損害賠償請求された。

これらの例から分かる通り、役員が訴訟を起こされるリスクは、企業規模にかかわらず日常的に存在しています。

どちらを利用すればいい?

D&O保険と会社補償は、それぞれ目的や填補範囲などが異なっていますので、適用場面を検討した上で使い分ける必要があります。

例えば、D&O保険は、免責事由や支払限度額が定められるので、通常、損失や費用の全額は填補されません。それに対し、会社補償は、一定の要件を満たす限り全額を補償することも一応可能です。

また、すでにD&O保険に入っている場合でも、例えば、支払限度額を使い切ってしまった後に、填補しなくてはならない事情が生じたり、使いすぎると次回の更新時に保険料が増額されるので利用を抑えてしまったりといったケースが起こり得るため、場合によっては、補償契約を併用することを検討してもよいかもしれません。

おわりに

D&O保険と会社補償を導入することで、役員が萎縮することなく職務の執行ができるようになれば、新たなビジネスチャンスにもつながります。効果的に活用できるよう、実際に利用する際は、専門家のアドバイスを得た上で導入することをおすすめします。

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