新型コロナの影響でテレワークが普及するなど、柔軟な働き方が加速する中で、「ジョブ型雇用」という雇用形態に注目が集まっています。
2022年1月10日、日立製作所が「ジョブ型雇用」の適用を全社員に広げると報道され、話題となりました。ほかにも資生堂、富士通など名だたる大企業が「ジョブ型雇用」の導入を表明しています。
今回は「ジョブ型」雇用の基礎知識を確認していきます。
ジョブ型雇用とは?
「ジョブ型雇用」とは、例えばシステム開発やWebマーケティングなど、「あらかじめ明確に規定した職務内容に対して、専門知識やスキルを持った人材を採用する仕組み」を指します。欧米では広く普及しており、働く側にとっては、「職務内容に必要なスキルを持っているか?」が問われることになります。
日本では従来「メンバーシップ型雇用」が一般的です。会社は社員にふさわしい仕事を割り当て、ジョブローテーションで幅広い職種を経験させます。通常「新卒一括採用」や「終身雇用制度」とセットで運用されています。
ジョブ型では、社員の賃金は年齢や勤続年数とは関係なく「業務に対する成果」で決まるのに対し、メンバーシップ型では主に「労働時間」で決まり、勤続年数に応じて増加する仕組みをとっています。
ジョブ型雇用が増えている背景
新型コロナの感染拡大により、急遽テレワークに踏み切った企業の悩みの一つが、「社員の管理や評価の難しさ」でしょう。社員が出社して勤務するのであれば、真面目に働いているか一目瞭然ですし、労働時間に応じて給与を払えばよいところ、テレワークでは勤務態度や正確な勤務時間を把握しにくいためです。
従業員にある程度の「柔軟な働き方」を容認し、その代わり「成果」を求めるジョブ型は、こうした社会状況の変化にマッチした働き方といえるでしょう。
また、グローバル化の進展による企業環境の変化も理由として挙げられます。
海外との競争が激化する中、IT技術者など専門的な知識を持った人材を確保したいと思っても、年功序列による賃金体系では、優秀な人材が集まりにくいことが指摘されています。国際競争力を向上するためには、専門分野に精通した社員が働きやすい環境と条件を整えることが必須になってきているのです。
導入前に押さえておきたいポイントとは?
「ジョブ型雇用」の導入を検討するに際して、いくつか気をつけたいポイントがあります。
(1) 配置転換が難しく、解雇の可能性もある
ジョブ型雇用は、職務内容を詳細に記載した「職務記述書 (ジョブディスクリプション) 」にのっとって採用を行います。採用のミスマッチを防げる反面、「記述書」に書かれていない業務を任せることができないのが原則です。そのため、会社の事業方針の転換などにより、その職務が不要になったとき、配置換えが難しく、解雇する必要が生じる場合があります。
(2) すぐに転職されてしまう可能性
給与などの労働条件が優れた企業に転職されてしまうおそれが高くなります。
(3) 組織の柔軟性が損なわれる可能性
社員にとっては「自分のミッション達成」が役割になるため、相互に助け合う意識が育ちにくく、柔軟に動ける人材が育ちにくいおそれがあります。
おわりに
「ジョブ型雇用」は時代の流れに沿った、メリットの大きい制度ですが、労働市場の流動性が低く、法律的に解雇が難しい日本では、すぐに普及するとは考えにくいのが現実です。
しかし、グローバル環境がめまぐるしく変わる中で、国際競争力を上げていくためには、ときにドラスティックな改革も必要であり、将来を見据えた戦略の一つとして検討の余地がある制度です。
導入を検討する場合は、メリット・デメリットを勘案したうえで、他社事例なども参考にしつつ、慎重に進めるようにしましょう。
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