外国人労働者の労災を防ごう

外国人雇用

日本で働く外国人労働者の数は年々増加しており、2020年10月時点で約172万人と過去最多を記録しました。それに伴い、外国人労働者の労働災害も増え続けています。厚生労働省の発表によると、2020年の外国人労働者の労災発生状況は4682件、死者数30人でした (2019年はそれぞれ3928人と21人) 。その大半が、製造業 (2273人) と建設業 (797人) で発生しています。

(参考資料:「令和2年外国人労働者の労働災害発生状況」)

そこで今回は、そもそも外国人労働者に労災保険は適用するのか確認した上で、労災が起きた場合の企業への影響や、企業がとるべき労災防止策について確認していきます。

外国人労働者に「労災保険」は適用される?

「労災保険」は、従業員が仕事中や通勤途中で病気になったりケガをしたりした場合に、治療費などを補償する制度で、労働者を一人でも雇っている事業主は労災保険に加入しなければなりません。外国人であっても日本人と同じように適用されますし、アルバイトの留学生や、技能実習生、さらに不法就労者であっても対象となります。

労災が企業に与える影響とは?

労災が起きると、その従業員が日本人であっても外国人であっても、企業にはさまざまな悪影響があります。例えば下記のような点が挙げられます。

①労働者から安全配慮義務違反で損害賠償を請求される可能性がある。
②労働基準監督署の立ち入り検査を受けることがある。
③労災保険料が増額されることがある。
④公共工事の入札に悪影響が出る (指名停止処分になる可能性) 。
⑤労災認定が公表されることによる社会的制裁を受ける。

このうち①について説明を補足します。まず注意すべき点は、労災保険の補償でカバーされるのは、治療費や休業補償の一部、後遺症が残った場合の障害補償給付のみで、慰謝料や逸失利益 (ケガや病気がなければ将来的に稼げたはずの利益) などはカバーされないということです。

会社には、従業員の安全と健康に配慮すべき義務 (安全配慮義務) があるため、それに違反したために労働災害が起きた場合は、労災給付にプラスして、慰謝料などの損害賠償を請求される可能性があるのです。

どんな労災が発生しているのか

例えば、とくに労災発生件数の多い「製造業」について、2020年の外国人労災の発生状況を見てみると、「はさまれ・巻き込まれ」が663件、「切れ・こすれ」が330件、「転倒」が291件などとなっており、機械操作の教育不足や現場の安全対策の不備が透けて見える結果となっています。

製造業の場合、刃物や熱・冷気の発生、滑りやすい床、原材料加工用の機械の取扱いなど、怪我をしやすい危険な要因がそろっている点も、事故の起こりやすい理由といえるでしょう。また、製造工程も多いため、現場教育が行き届かないケースも起こりがちです。

このように、それぞれの業種に応じて労災の発生しやすい場面は異なりますので、とるべき対策や注意すべき点も変わってきます。厚生労働省の「職場の安全サイト」では、さまざまな労働災害事例やヒヤリ・ハット事例が紹介されていますので、危険な作業工程の洗い出し等に役立ててみてはいかがでしょうか。

どうすれば労災は防げるのか

次に、どのような対策をとれば外国人労働者の労災を防げるのか、具体的に確認していきましょう。

(1) 安全管理体制の徹底

これは日本人従業員の労災防止も含めた対策となりますが、工場などの現場において、危険な作業工程を洗い出したり、定期的に点検するなどして、日頃から事故の起きにくい作業環境を整備しておく必要があります。

(2) わかりやすい「安全衛生教育」の実施

外国人を雇い入れたときや、作業内容が変わったときは、事故を防止するための「安全衛生教育」が必須とされています。口頭で説明するだけでなく、外国人に分かる言葉で書かれたマニュアルを用意するとよいでしょう。「外国語でマニュアルを用意するのは大変…」というときは、厚生労働省が提供している「マンガでわかる働く人の安全と健康(教育用教材)」が活用できます。ケガをしやすい状況や注意すべき点などが、マンガで分かりやすく説明されています。全部で18種類の教材が用意されており、日本語のほか、ベトナム語、ミャンマー語など11~14ヶ国語に対応しています。

また、上記で紹介した厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、動画による「安全衛生教材」が多言語で用意されていますので、ぜひ活用してみてください。

(3) 作業の説明は理解度を確認しながらOJTで

外国人労働者は日本語でのコミュニケーションがうまくとれない場合も多いため、現場で頻繁に使う専門用語をしっかりと教える必要があります。また、慣習などの違いから、日本では常識とされている基本的な対策を知らないことも多々あります。

そのため、最初に作業を指示する際は、現場で作業状況を確認しながら行うとよいでしょう。また、「どんな危険があるか」に重点を置いて説明し、相手がちゃんと理解しているか、説明後に確認することが大切です。とくにリスクが高い作業については、繰り返し丁寧に教えるようにしましょう。

(4) 緊急時に備える

日本語での意思疎通が困難な外国人労働者のため、緊急時に必要となる「あぶない」や「にげろ」といった言葉や、それを意味する合図は、最初にしっかりと覚えてもらうようにしましょう。

もちろんそれだけでなく、全般的な日本語能力の向上のために、普段からしっかりとコミュニケーションをとることが大切です。

おわりに

外国人労働者の労災は、きちんとした対策を行っておくことで、未然に防げる場合が少なくありません。厚生労働省が提供する資料や情報などをうまく利用しながら、事故の発生しない安全な職場環境を整えましょう。

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