初めての外国人雇用:採用までの5ステップ〜③雇用契約書の作成

外国人雇用

これまで別記事において、外国人雇用に必要となる5ステップのうち、「ステップ1:募集」、「ステップ2:書類選考」、「ステップ3:面接」までを説明してきましたが、今回は「ステップ4:雇用契約書の作成」について解説します。

雇用契約書は必ず必要?

「労働条件通知書」と「雇用契約書」

外国人求職者との面接を終え、採用することが決まったら、次は雇用契約を締結します。

雇用契約とは、「労働者が労働に従事し、雇用者がそれに対して報酬を与える契約」のことです。雇用契約は口約束でも成立しますが、外国人を採用する場合は必ず「労働条件通知書」または「雇用契約書」を作成しなくてはなりません。その理由の一つは、採用された外国人が在留資格 (就労ビザ) の取得申請を行う際に、「労働条件通知書」もしくは「雇用契約書」の提出が必要となるためです。

では、「労働条件通知書」と「雇用契約書」のどちらを作成すればよいのでしょうか?

まずは両者の違いを簡単に見ておきます。

  • 「労働条件通知書」とは、雇用する労働者に、労働条件 (労働時間、給与、業務内容など) を提示する書面で、労働基準法で労働者への交付が義務付けられています。
  • 「雇用契約書」とは、労働条件について雇用者と労働者の双方が合意した上で取り交わす契約書で、法的な作成義務はありません。

それなら作成義務のある「労働条件通知書」だけ作っておけばいいのでは?と思うかもしれませんが、雇用契約書の作成には大きな利点があります。

両者の大きな違いは、前者が雇用者から労働者へ一方的に通知されるのに対し、後者は雇用者と労働者の双方が内容に合意した上で署名・捺印した書類を2通作り、それぞれが1通ずつ保有する契約書である点です。一方的な通知だけでは、後々雇用した外国人が、例えば「契約した給与はもっと高いはずだ。労働条件通知書が間違っている!」と主張して、トラブルになる可能性があります。そのため、外国人が労働条件に合意したことの動かぬ証拠となる雇用契約書を作成しておくことがとても有用なのです。

雇用契約書は外国語に翻訳しないとダメ?

外国人を雇う場合の雇用契約書は、外国語に翻訳する必要があるのでしょうか? 結論から言うと、雇用契約書を英語や外国人の母国語で作成する法的義務はありません。ただし、可能な限り日本語のみでなく、英語等で作成すべきと思われます。外国人は習慣や考え方が日本人とは異なるため、労働条件について思わぬ誤解をしているかもしれません。最近では在留資格の審査過程で、外国人に電話調査が行われることがあり、その際に契約内容について正しく答えられないと、不許可になってしまうおそれもあります。後々のトラブル予防のためにも、外国人が内容を正確に理解できる言語で契約書を作成することがおすすめです。さらに、雇用契約書の中に「私は理解できる言語で労働条件の説明を受け、これに同意しました」というような文言を入れておくと安心でしょう。

なお、厚生労働省のサイトで、外国人労働者向けのモデル労働条件通知書 (英語、中国語、ベトナム語など8か国版) が公開されているので、参考にしてみてください。 (https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/leaflet_kijun.html)

雇用契約書の記載内容〜トラブルを防ぐためのポイントとは?

雇用契約書の記載内容は、基本的には日本人用と同じ内容で大丈夫ですが、いくつか注意すべきポイントがあります。

(1) 必ず記載すべき事項

まず、労働基準法では、以下の労働条件について、労働者に必ず書面で明示することを雇用主に義務づけています。この義務に違反すると、30万円以下の罰金が科されてしまうので注意が必要です。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所
  • 始業、終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
  • 従事する業務
  • 労働契約の期間
  • 賃金額 (計算や支払い方法、締め切り及び支払いの時期に関すること)
  • 時間外労働の有無
  • 退職に関する事項

次に、特に注意すべき記載ポイントについて説明します。

労働契約の期間

期間を定める場合は、労働基準法で上限は3年までと定められています。

就業場所

勤務地が予定と違ったり転勤がある場合に「契約と違う」とトラブルになることがあります。可能性のある勤務地をあまさず記載することをおすすめします。念のため、「雇用契約書に記載されていない勤務地となる場合がある」というような文言を記載しておくと安心です。

始業、終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項

例えば、仕事の準備をするために定まった始業時間より少し早く出勤する社風がある場合、外国人には受け入れ難いことがあります。そうした点があれば、契約書に記載した上で、口頭でも説明し、理解を求めることが大事です。

賃金

賃金は、「同じ業務をする日本人と同等以上」にする必要があります。同じ業務をする日本人がいない場合は、同じ地域で同じ業務をしている日本人と同等程度にする必要があります。また、正社員で雇用する場合は、時給換算したときに最低賃金を下回らないよう注意してください。 賃金はトラブルの元になることが多いので、なるべく詳細に定めておくとよいでしょう。

退職

定年制の有無、自己都合退職による手続き、解雇の事由および手続などについて明記します。外国人から退職を申し出る場合には何日前に申し出るかについても定めておきましょう。

従事する仕事

業務内容は、①本人の学歴や履修科目と関連性があり、②在留資格の内容と矛盾がないよう、注意しましょう。また、在留資格申請が通りやすいよう、なるべく詳しく記載しておくことがポイントです。例えば単に「経営企画」とするのではなく、「○○についての調査やデータ分析、○○を推進するための戦略立案」など、具体的に記載しましょう。

在留資格の審査のためには、職務内容が申請人の学歴や履修科目と関連性があることが重要です。また外国人の場合、「契約に記載のない業務はしない」という考えの人も少なくなく、トラブルが起きる場合があります。想定し得る業務内容はできるだけ詳しく記載してください。「場合によっては掲載内容以外の業務も発生する」という一文を入れておくと安心です。

研修

入社後に短期の現場実習や研修がある場合は、必ず記載してください。ほとんどの在留資格で現場での仕事(単純労働)は原則禁止されていますが、職務に必要な短期間の研修であれば許されていますので、契約書にその旨を記載するとともに、研修内容やその期間を記載しておきましょう。

停止条件付雇用契約とは

外国人の採用において注意したいのは、雇用契約の後に、在留資格 (就労ビザ) 申請が行われるという点です。つまり、契約段階では、まだ採用した外国人は働く資格を持っていないのです。

そのため、外国人を雇う場合は、在留資格が認められたら初めて効力を生じるという性質を持つ雇用契約を結ぶことが一般的です。これを、「停止条件付雇用契約」といいます。

雇用契約書には、次のような条項を設けることになります。

「本契約書は、当社に就労可能な在留資格 (もしくは在留資格変更) の許可を条件とし、就労が認められない場合には無効とする」

つまり、「在留資格が認められなかったら雇用契約は無効となり、雇うことはできませんよ」、という趣旨です。

おわりに

外国人を雇用する場合は、トラブル防止のためにも雇用契約書を取り交わしておきましょう。その際は、外国人が理解できる言語で、できるだけ細かく給与や待遇などを記載することが大切です。抜け漏れがないよう入念に確認し、可能であれば弁護士などの専門家にチェックしてもらうことがおすすめです。

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