就業規則の変更を行う場合、それが「不利益変更」に当たるかどうかは非常に重要なポイントとなります。不利益変更とは、「会社が労働条件を、従業員にとって今より不利益な内容に変更すること」を言います。例えば、「給与の引き下げ」や「退職手当の廃止」などが該当します。そのような不利益変更は、労働契約法9条により原則禁止されています。
とはいえ、経営悪化に陥るなど、不利益変更を検討せざるを得ないケースも生じ得ることでしょう。そのような場合は法律で定められた手順を踏むことで、変更することができます。
その際、万一、手続きを誤って変更を進めると、後々、従業員から訴訟を起こされるなど、大きなトラブルを招くリスクがあるので、慎重に行わなくてはいけません。
不利益変更はどのような場合に認められるのか?
就業規則の不利益変更は、原則として労働者の合意なく行うことはできません。
認められるのは、以下の2つの場合です。
(1) 労働者の合意がある場合 (労働契約法9条)
(2) 労働者の合意がなくても、変更した就業規則を「周知」させ、かつ「合理性」がある場合 (労働契約法10条)
次に、それぞれの場合の留意点について説明します。
労働者の合意を得る
上記①のとおり、不利益変更であっても、労働者の合意が得られた場合は行うことができます。ただし、「合意」を得る方法については注意が必要です。合意を強制したり、解雇の可能性をちらつかせたりするのは違法です。あくまで労働者の「自由意思」で合意してもらうことが重要となります。
例えば下記のような方法を取ることで、トラブルの予防につながるでしょう。
- なぜ変更する必要があるのか、どのように変更するのか、十分に説明する
- 代償措置や経過措置を設ける
- なるべく多くの従業員から同意書を取る
労働者の合意が得られない場合
労働者の合意が得られない場合でも、上記②のとおり、「周知」と「合理性」の要件を満たせば不利益変更をすることが可能です。
その際、「合理性」があるかどうかの判断は、次の要素を考慮して判断されます。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 代償措置や関連する労働条件の改善
- 労働組合等の交渉の状況
例えば、新型コロナ感染拡大の影響で経営が悪化し、あらゆるコスト削減を実施してもなお会社存続が危ぶまれているために賃金の引き下げを行う決断をした場合など、会社にとって変更の必要性が大きいほど、「合理性」を認められる可能性が高まります。ただし、賃金の減額のように労働者の受ける不利益の程度が大きい場合には、非常に高い「必要性」が必要になるかもしれません。
このように、合理性が認められるかどうかは、ケースバイケースで判断する必要があるため、不安要素がある場合には、労働問題に詳しい専門家に相談して進めると安心です。
おわりに
労働者の合意を得ていない不利益変更は、訴訟リスクがあるだけでなく、労働者の士気が下がったり、世間の会社に対する評判が下がったりするおそれが多分にあります。
そのようなトラブルを回避するために、不利益変更の強行は絶対に避けるべきでしょう。
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