パワハラ加害者に対する処分

パワハラ

いわゆる「パワハラ防止法」の施行により、パワハラ対策は会社の義務となりました (中小企業への適用は2022年4月から) 。職場でパワハラが起きてしまったら、経営者には事実関係の調査や被害者への対応など、やるべきことがたくさんあります。その中のひとつが、パワハラ加害者に対する適切な処分です。

しかし、安易に「パワハラをしたからクビだ!」と対応してまうと、逆にその社員から訴えられる恐れがあります。一方で、「被害者の過剰反応かもしれないし、面倒だからしばらく様子をみよう」という判断も、被害を受けた社員が労基や法的手段に助けを求めるきっかけになってしまいます。

パワハラは会社がどんなに予防対策をしていても、個人的な要因も大きいため、100パーセント防ぐことは困難です。そのため、万一パワハラが起きてしまった場合でも、慌てず適切に対応できるよう、正しい対処法を知っておくことが重要となります。

今回は、経営者が頭を悩ませることの多い、パワハラ加害者の社員に対する処分について取り上げます。

パワハラ加害者に対する処分の種類とは?

事実調査によってパワハラ行為があったことが確実になった場合、被害者を安心させるためにも、早急にパワハラ加害者に対する具体的な処分を検討する必要があります。

まずは、加害者の処分には、どのような種類があるか確認しておきましょう。

懲戒処分

「懲戒処分」とは、従業員が会社の秩序を乱すような行為をした場合に、使用者がその従業員に与える罰のことをいいます。パワハラは、他の従業員に対して精神的・身体的な苦痛を与えてその人の職務遂行を妨げ、職場環境を悪化させる行為なので、「会社の秩序を乱すような行為」に該当します。ただし、就業規則で規定していない懲戒処分を行うことはできませんので、注意してください。

一般的な懲戒処分には、軽い順に以下の7種類があります。

「戒告」: 従業員に反省を求め、戒める処分です。口頭での反省が求められます。

「譴責 (けんせき)」: 従業員に反省を求め、戒める処分です。書面での反省が求められます。

「減給」: 従業員が本来受け取るべき賃金額から、一定額を差し引く処分です。

「出勤停止」: 就労を一定期間禁止する処分です。

「降格」: 従業員の役職や職位を引き下げる処分です。懲戒処分ではなく人事権の行使として行うこともあります。

「論旨解雇」: 解雇に相当する行為をした従業員に対して、情状酌量の余地があるとして、退職を促し、自主退職させる処分です。

「懲戒解雇」: 会社が一方的に従業員の労働契約を終了する処分です。通常は、予告なく、即時に行われます。

人事異動

懲戒処分を行うほどのパワハラ行為ではないと判断された場合でも、加害者と被害者を引き続き同じ職場で働かせることが適当ではない場合、転勤や部署移動などの措置を検討します。

こうした人事異動には、会社の裁量が比較的広く認められています。ただし、雇用契約で「別の勤務地への転勤は無し」と規定されている場合に転勤させてしまうと、契約違反になってしまうのでご注意ください。また、会社が退職に追い込む目的で転勤させたりするのも、権利濫用として無効となる場合があります。

懲戒処分を決める際の目安とは?

上記のとおり、パワハラは基本的には「懲戒処分の対象」となりますが、実際のパワハラ行為と比べて重い処分を下してしまうと、「懲戒権の濫用」として無効になってしまう可能性が高いため、どのような懲戒処分にするか、慎重に判断する必要があります。

具体的には、行為内容の悪質性、頻度や期間、被害の程度、反省や謝罪の程度などを、個別具体的に判断したうえで、適当な懲戒処分を検討しなくてはなりません。

判断基準としては、次の3つの場合が考えられます。

(1) 犯罪行為レベルの悪質なパワハラ

「殴る」「蹴る」などの身体的な暴行・傷害や、「殺すぞ」「死ね」などの脅迫に該当する犯罪行為に対しては、懲戒解雇などの重い処分を検討するのが適当です。

(2) 民法上の不法行為レベルのパワハラ

長時間にわたり強い叱責を繰り返したことで部下がうつ病を発症した場合などには、民法上の不法行為が成立する可能性があります。そのような場合は、降格や出勤停止などを検討します。

ただし、同様の行為を繰り返しており、反省の色のない加害者に対しては、解雇を検討できる場合もあると考えられます。

(3) 職場環境を悪化させるレベルのパワハラ

指導の行き過ぎや、多少、職場環境を害するレベルのパワハラに対しては、まずは注意や指導を行ったうえで様子を見て、改善されない場合には、より重い処分である減給や降格を検討するのが適当でしょう。

おわりに

事実調査でパワハラが明らかになった場合は、迅速な対処が重要なポイントとなります。パワハラは職場環境を悪化させ、放置しておけば経営悪化に直接結び付くため、経営者としては職場環境改善のために、素早く適切に対応せねばなりません。一方で、パワハラ行為者に対する懲戒処分は慎重さを要求され、個別具体的な検討も必要なため、可能であれば専門家のアドバイスを得ながら行うことをおすすめします。

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