従業員を雇用する場合は、何か問題が起きたときに労働契約を打ち切る、つまり「解雇」についても念頭に置いておく必要があります。
採用や解雇に関するルールは、原則として、日本人でも外国人でも同様のものが適用されますが、外国人特有の注意点もあります。以下では、まず、一般的な解雇のルールを確認したうえで、外国人特有の注意点について見ていきましょう。
解雇のルール
解雇が正当だと認められるためには、いくつかの要件を満たさなくてはいけません。それらを満たしていないと不当解雇として無効になってしまうので注意が必要です。
(1) 就業規則での明示
解雇などの懲戒処分を行うためには、「就業規則」において、「どんなときに解雇されるか」についてあらかじめ示しておく必要があります。
解雇は従業員の地位を一方的に失わせる行為なので、従業員の生活に与える影響は非常に大きいものです。そのため、「解雇の理由」に関する事項は必ず就業規則で定めておくべきとされています。
(2) 客観的合理性と社会通念上の相当性
解雇は、対象となる従業員が日本人であれ外国人であれ、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされており、①客観的合理性と②社会通念上の相当性が必要になります (労働契約法16条) 。
「客観的合理性」とは、第三者から見ても解雇するのがやむを得ないということ、「社会通念上の相当性」とは、社会一般の常識に照らして解雇処分が相当 (重すぎない) であることを指します。
この2つの判断はケースバイケースで行う必要がありますが、例えば下記のような例が挙げられます。
1、 客観的合理性があると認められるケース
- 傷病により仕事ができず、復帰の見込みがない
- 悪質なパワハラ行為が行われた
- 経営不振によりやむをえず整理解雇した
2、 社会通念上の相当性があると認められるケース
- 無断欠勤を繰り返している社員に対し、度重なる指導を行ったが改善されない
- ハラスメントの繰り返し行い、何度注意されても反省の色がまったくない
(3) 予告の必要
解雇処分が客観的合理性と社会通念上の相当性を備えている場合であっても、少なくとも30日前には解雇する旨を従業員に予告しなければならず、その予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を労働者に支払う必要があります (労働基準法20条1項) 。
(4)法律で定められている「解雇禁止事由」
労働基準法などの法律により、解雇が禁止されている場合があります。例えば下記のようなものがあります。
① 国籍、信条、または社会的身分に基づく差別的解雇 (労働基準法3条) 。
② 業務上の負傷・疾病による休業期間とその後の30日間、産前産後の休業期間とその後の30日間の期間の解雇 (労働基準法19条)
③ 労働者が、労働基準法違反の事実を労働基準監督署等に申告をしたことを理由とする解雇 (労働基準法104条2項)
④ 育児・介護休業の申出、取得を理由とする解雇 (育児・介護休業法10条、16条)
⑤ 公益通報をしたことを理由とする解雇 (公益通報者保護法3条)
外国人特有の注意点
外国人を解雇する場合には、上記に加え、外国人特有の注意点があります。
(1) 国籍による差別の禁止
労働基準法第3条は、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件につき、差別的取扱をしてはならない」と定めており、国籍などを理由とした差別を禁じています。そのため、外国人であることを理由とした解雇は無効となります。
(2) 外国人ならではのスキル不足
例えば「日本語能力が劣っているため、職務を果たせない」を理由に解雇した場合、外国人が日本人と比べて日本語能力が劣っているのは仕方がないことなので、採用時から会社がそのことを認識していた場合、解雇は無効とされる可能性が高いでしょう。
(3) 在留資格の更新ができなかった場合の解雇
外国人従業員の在留資格には期限があるため、更新の必要があります。何らかの理由で更新申請が不許可になった場合、そのまま働き続けると「不法就労」となり、会社側も罪を問われてしまいます。そのため、「在留資格の更新が不許可となった」ことに基づき、解雇できるかが問題となります。一般的には「在留資格更新の不許可」は「客観的に合理的な理由」に該当し、「社会通念上の相当性」もあると判断され、解雇できると考えられますが、念のため専門家に相談することをおすすめします。
おわりに
「解雇」は従業員の生活に大きな影響を及ぼし、特に外国人の場合は、在留資格に応じた再就職に相当な苦労が伴います。経営上の理由などでやむを得ず解雇する場合は、できるだけ再就職の支援を行うようにしましょう。また、後でトラブルにならないよう、解雇の理由を外国人に納得してもらえるよう説明することも重要です。いずれにせよ、解雇は慎重に行う必要があり、可能であれば専門家のアドバイスを得て行うようにしましょう。
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