今年6月に施行される「改正公益通報者保護法」の目玉のひとつが、社内で「内部通報」関連の業務を担当する人に 守秘義務 が課されたことです。
今回は、それがどのような義務なのか、企業側はどのように対応すべきなのかについて探っていきます。
担当者に課された守秘義務とは?
改正法により、内部通報を受け付ける担当者に、新たに通報者に関する守秘義務 が課されることになりました。違反すれば、刑事罰 (30万円以下の罰金) の対象になります。
過去には、誰が通報者か社内で明らかになったせいで、通報者が不本意な異動や嫌がらせといった仕打ちを受けるケースが多く見られ、最悪の場合、不正を指摘された本人に対して、通報者の情報が伝えられた例もありました。
このような「通報した人が損をする」状況がまかり通っていては、内部通報制度が機能するはずがありません。そこで、通報者の保護を強化するため、上記のとおり守秘義務と罰則が設けられることになりました。
企業はどう対応すべき?
内部通報制度を導入している企業としては、 (1) 担当者の意識付けと、(2) 担当者に配慮した制度設計の2つの観点からの対応が必要になります。
(1) 担当者の意識付け
まずは、内部通報の受付担当者に対し、どのような責任があり、どのような対応をするべきか、きちんと説明することが大切です。刑事罰を伴う守秘義務があるので「うっかり秘密を漏らした」では済まされないことを十分に理解しておいてもらいましょう。できれば書面で伝えることをおすすめします。
(2) 担当者に配慮した制度設計
通報のあった事案について調査する過程で、おのずと誰が通報者か分かってしまうケースがあります。例えば、パワハラ被害者が通報した場合、加害者や周辺の社員へのヒヤリングを実施することで、被害者本人が通報者だと分かってしまうことが多々起こり得ます。
このような場合、担当者は通報者から刑事告訴されるリスクを抱えてしまいます。
そのため、① 情報管理の徹底と、② 担当者を萎縮させない対応フローの準備が必要です。
まず①ですが、担当者が故意に情報を漏らさなくても、通報データの管理の甘さから情報が漏洩してしまっては、通報者も担当者も守られません。プライバシー保護の観点からも、自社内の情報管理体制を徹底させておきましょう。
次に②ですが、例えば、パワハラ事案の通報を受けた場合には、通報者に対し、「調査過程で、通報者が特定されるリスクが皆無ではない」ことを説明し、通報者の同意を得たうえで調査を行うなど、後でトラブルにならないような「通報対応フロー」を準備しておきましょう。マニュアル化しておくと便利です。
なお、消費者庁の「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書」 (令和3年4月)の19頁には、「従事者が公益通報者を特定させる事項を漏らしたことについて「 正当な理由 」がある場合には法第 12 条の違反とはならない」とあります。通報者の同意がある場合や、調査に必要な範囲の社員間で情報共有する場合などは、「正当な理由」に当たると考えられます。
おわりに
今回、守秘義務が設けられたおかげで、通報者がより安心して内部通報制度を利用できるようになりました。反面、通報受付担当者にはこれまで以上に負担がかかるおそれがありますので、企業は、担当者に配慮した制度設計を行うようにしましょう。
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