「雇用契約書」とは、使用者と労働者との間で労働時間や賃金などに関する取り決めを記載した契約書のことです。
この「雇用契約書」、実は法的には作成義務はありません。
日本の民法では、「契約は口約束だけで成立する」という考え方を採用しているので、書類の作成までは求められていないのです。
そのため「面倒だし、べつに作成しなくてもよいのでは」と思って、実際に作成していない経営者の方も少なくないようですが、実際のところはどうなのでしょうか?
今回は、労働者を雇う場合の雇用者の義務について確認したうえで、「雇用契約書」を作成したほうがよい理由を探るとともに、その記載内容について説明します。
雇用契約を結ぶ際の、雇用者の義務とは?
冒頭に述べたように、雇用者にとって「雇用契約書」の作成は義務ではありませんが、雇い入れる労働者に対して労働時間や賃金などの「労働条件を書面で明示する義務」はあります。これは法律で義務付けられているため、違反すると30万円以下の罰金を課される可能性があります。この書面は「労働条件通知書」と呼ばれており、従業員が希望した場合は、FAX、電子メール、SNSなどで明示することもできます (https://www.mhlw.go.jp/content/000481172.pdf) 。
内容的には下記の事項を記載することになります。
- 契約期間
- 就業場所
- 業務内容
- 始業時間と終業時間
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 賃金の内容、締日・支払日
- 退職、定年、解雇
なお、「労働条件通知書」は、厚生労働省のウェブサイト「主要様式ダウンロードコーナー」で職種別のモデル書面を無料でダウンロードできますので、参考にしてみてください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/index.html
作成義務のない「雇用契約書」が、それでも必要な理由とは?
ここまで読んで、結局のところ「労働条件通知書」があれば「雇用契約書」は必要ないのでは?と思う方もいると思います。実際、「雇用契約書」の記載内容は「労働条件通知書」と重なる部分がたくさんあるからです。
しかし、結論からいうと、企業側にとって「雇用契約書」を作成するメリットは大きいため、可能であれば作成することをおすすめします。主な理由は下記の2点です。
- 労働条件通知書は雇用者から一方的に通知されるだけなので、双方の認識の違いからトラブルになる可能性があります。その点、「雇用契約書」は、双方が内容を確認・了承し、署名・捺印して一部ずつ保管することが特徴です。つまり、後になってから、どちらかが「そんな取り決めはしていない」と主張してトラブルになるような事態を防ぐことができます。
- 「労働条件通知書」は書類の性質上、法律的に必要な最低限の項目の記載で済ませてしまう場合が多くなります。その点、「雇用契約書」には、人事異動、退職・服務規律、秘密保持、競業禁止など、それぞれの企業において必要と思われる項目を詳細に定めておくのに適しています。そうした内容は就業規則で定めればよいのでは、と思われるかもしれませんが、雇用契約書にも記載しておくことで、これから働き始める従業員にあらかじめ注意喚起を促す効果があります。
両方の書類を兼ねて、「労働条件通知書兼雇用契約書」のような書面を作成することも、一般的によく行われています。
おわりに
雇用契約そのものは契約書を必要とせず口頭だけでも成立しますが、後々のトラブル防止の観点からは雇用契約書を作成し、交わしておくと安心です。
なお、雇用契約書は、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態に合わせて作成する必要があるので、その点は注意しましょう。
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